「その話にはエビデンス(根拠)がありますか?」「これは客観的なファクト(事実)だ」。
私たちは日常的にこれらの言葉を使いますが、その意味の違いを明確に説明できるでしょうか?この記事では、「エビデンス」と「ファクト」という、一見似ているようで全く異なる二つの言葉の本質を徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたの思考はよりシャープになり、情報の真偽を見抜く力が身につくでしょう。
なぜ「ファクト」と「エビデンス」の使い分けが重要なのか?
インターネットやSNSの普及により、私たちは膨大な情報に囲まれています。しかし、その中には、個人の主観や偏見に基づいた「意見」や、意図的に歪められた情報も少なくありません。
「ファクト」と「エビデンス」の違いを理解することは、情報過多の現代社会を生き抜くための必須スキルです。これらを正しく使い分けることで、あなたは情報の受け手としてだけでなく、発信者としても、より信頼性の高いコミュニケーションを行うことができるようになります。
1. 「ファクト」の本質:客観的に『存在する』情報

「ファクト(Fact)」とは、**客観的に存在し、誰もが確認できる「事実」**を意味します。
その本質は、「真偽を問う必要がない、揺るぎない情報」です。例えば、「今日の天気は晴れだ」「日本の首都は東京だ」といった情報は、主観や解釈を挟む余地がなく、真実として受け入れられます。ファクトは、それ自体が単独で成立する、最も基本的な情報の単位です。
例文で見る「ファクト」
- 「この製品は、昨年100万個販売されたという**ファクト**がある。」
→ 統計データに基づいた揺るぎない事実。 - 「あの事故は、午後3時15分に発生したという**ファクト**が判明した。」
→ 発生した時間という、単一で検証可能な事実。
2. 「エビデンス」の本質:ある主張を『裏付ける』根拠

「エビデンス(Evidence)」とは、**ある主張や仮説が正しいことを証明するための「根拠」や「証拠」**を意味します。
その本質は、「特定の主張を支持するために使われる情報」です。エビデンスは、単独で存在するのではなく、必ず何らかの主張と結びついています。例えば、「この薬は病気に効果がある」という主張に対し、「治験データ」がエビデンスとなります。この場合、治験データというファクトが、「薬は効果がある」という主張を裏付ける役割を果たしているのです。
例文で見る「エビデンス」
- 「この新製品の成功を証明する**エビデンス**として、顧客満足度調査の結果を提示します。」
→ 顧客満足度というファクトが、「新製品は成功した」という主張の根拠となっている。 - 「その説は、十分な科学的**エビデンス**がないため、信憑性に欠ける。」
→ 「その説」が正しいと証明するための根拠が不足していることを意味する。
3. 徹底比較:「ファクト」と「エビデンス」の決定的な違い

両者の関係を理解するための鍵は、「**ファクトはエビデンスの材料になる**」ということです。つまり、ファクトは客観的な情報そのものであり、エビデンスは、そのファクトを用いて作られる主張を裏付けるための「論理的な構造」と言えます。
| ポイント | ファクト(Fact) | エビデンス(Evidence) |
|---|---|---|
| 存在形式 | 単独で存在する | 何らかの主張と結びついて存在する |
| 役割 | それ自体が揺るぎない真実 | 主張の真実性を証明するための根拠 |
| 関係性 | エビデンスの材料となる | ファクトを用いて構成される |
4. 現代社会における「エビデンス」の重要性
特に科学や医療の分野では、「**エビデンスに基づいた医療(EBM: Evidence-Based Medicine)**」という言葉が一般化しています。これは、医師が個人の経験や勘ではなく、科学的な根拠(エビデンス)に基づいて治療法を選択することの重要性を示しています。
これはビジネスや日常生活にも通じる考え方です。
「なんとなく」や「〜らしい」といった曖昧な情報ではなく、客観的なデータや根拠(エビデンス)を基に意思決定を行うことで、より良い結果を導くことができます。
まとめ:情報の受け手として、そして発信者として

本記事では、「ファクト」と「エビデンス」の決定的な違いを、その本質と役割から解説しました。
- ファクト:客観的に**「存在する」情報**
- エビデンス:ある主張を**「裏付ける」根拠**
情報の受け手として、あなたは「それは単なるファクトか?それとも、その主張を裏付けるエビデンスなのか?」と自問することで、情報の真偽を冷静に見抜くことができるようになります。
また、情報の担い手として、自分の意見や主張を述べる際には、それがどのようなファクトに基づいているのか、そしてそのファクトがどのようにエビデンスとなりうるのかを明確にすることで、あなたの発言はより信頼性の高いものとなるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 「データ」はファクトですか?エビデンスですか?
A1: 「データ」は、単独ではファクトです。例えば、「この商品の売上は1000個だった」というデータはファクトです。しかし、このデータを「この商品は成功した」という主張を裏付けるために使った場合、そのデータはエビデンスの役割を果たします。
Q2: エビデンスがあれば、その主張は必ず正しいですか?
A2: いいえ、そうとは限りません。エビデンスの信頼性や妥当性を吟味する必要があります。例えば、サンプルの数が少なかったり、調査方法に偏りがあったりする場合、エビデンスとして不十分な場合があります。
Q3: 「〜だそうです」という情報はファクトですか?
A3: いいえ、ファクトではありません。「〜だそうです」という情報は、誰かが言ったことを伝えるだけであり、その真偽は確認されていません。これは「伝聞情報」であり、ファクトの根拠とはなり得ません。
参考リンク
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EBM普及推進公開討論会(厚生労働省資料)
厚生労働省では、「根拠に基づく医療(EBM)」の今後のあるべき姿や、実践上の諸課題などについて討論を行うため、公開討論会を開催しています。

